Murakami
quickly finishes his sugar toast and grabs paper napkin to wipe his buttered
fingers. He was hungry. Kawabata says, “You know, I have this girl, and I have
been dating her for
about three months, and we haven’t even...”
The
silence falls and Kawabata lowers his voice and looks straight at Murakami—“…even,
kissed yet.”
Murakami
becomes speechless. Mishima keeps quiet, staring at Kawabata’s coffee cup.
Murakami
looks slightly puzzled for a moment. “Okay, and you want to sleep with her?”
“Yes,
but I don’t know how I should get closer
to
her.” Kawabata shrugs and sips coffee and water interchangeably and
clumsily.
“Kawabata-san,
have you ever slept with a woman?”
“On
no, no. Never.”
“Oh,
god,” says Murakami, “A world
famous writer, who is now in his late sixties with the Nobel Prize, is keeping his virginity? You are kidding me,
right?” Murakami is astonished and cannot help laughing, knowing he’s being rude, anyway. But it seems like
Kawabata doesn’t care.
“Wait,
Murakami-kun, I haven’t slept with anyone either.” Mishima finally speaks.
“Say
what??”
“I
said I haven’t had sex with anyone—I mean, with a woman.”
Murakami
freezes for a moment, and regrets he has chosen the sugar toast with coffee. He
should have chosen a big slice of Baumkuchen so he could take time to eat and fidget with a fork as he
listens to those world famous great writers—who have just confessed such
personal matters to him. What are they expecting to hear from him.
“Oh
yeah, your novel, right?” Murakami remembers reading that novel a few years
ago. It is a weird story about a guy who
keeps
visiting a house
called the House of Sleeping Beauties. There is a female master who
gives
women sleeping medicines. While women are sleeping, the customer can sleep with
one of them on the same
bed—he’s allowed to touch the woman, but no sex. What’s the point? That
was Murakami’s reaction to the story.
“Yes, ‘The House of Sleeping Beauties’ is my novel, as well, but it
exists in Kyoto. I have been there several times to lie beside beauties through
the night.”
“Just
like in your novel? Do they really take medicine and lie beside you all night
long?”
“Yes,
that’s right—and when I get a chance, I will borrow her right arm too.”
Murakami
is astonished. borrow her arm? It is
just beyond his imagination.
Nodding,
Kawabata says “Yes, she’ll take her right arm off from her shoulder and let me
borrow it for one night. I carry her arm with me by holding it under my jacket
and go home.”
Kawabata
grins and puts some sugar and cream in his lukewarm coffee. When he swirls
coffee with a spoon, the sugar makes
crunchy sounds in the cup.
Murakami asks for a refill of coffee. He is tired of the taste
of coffee, but suddenly he’s thirsty.
Mishima
is keeping quiet, but sips his coffee and finally speaks. “Kawabata-san told me
about that place and I’m visiting there quite often these days as well. I am thinking
about becoming a patron
of the house now.” Mishima smokes a cigarette and smiles.
“Didn’t
you get a chance to sleep—I mean, ask for sex with her then?”
Murakami
almost feels dizzy by his own question. He too, sounds like a teenage boy now. Who
are these guys?—Murakami asks himself. They were just great writers until
thirty minutes ago, but now they are just like high school boys on a school trip, gathering on one
bed for gossiping.
“No,
asking them for sex is not allowed for anybody,” says Mishima and leans forward
towards Murakami, “—even for famous writers. But I have some experience, you know, with a woman.”
“Oh
yeah? Please tell me about it.” Murakami finds Mishima’s thick chest hair slightly
disturbing.
“You
know, when I spent summer in Kamijima Island, I met this girl, Hatsue[3]. She was a little chubby,
just like that waitress who brought coffee for us.”
“And?” Murakami urges him to the
conclusion, not so interested in the small details anymore.
“And when I was caught in the serious
squall, I got in this observation tower that was built by the Japanese Army in the 1940’s. I needed to be under
the roof, you know. Hatsue was there. She was drying her clothes with a bonfire
and was naked. My clothes were all wet, so I took off mine too. I asked her to
come over in my arms to cuddle.”
[2] Kawabata, Y. (1969). The house of
the sleeping beauties and other stories.
[3]
Mishima, Y. (1956). The sound of waves.
+To be continued+
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仮面たちの告白 ②
村上は一気にトーストを平らげると、バターまみれの手を紙ナプキンで拭いた。腹ペコだったのだ。
「それで、ここ3ヶ月くらい、お付き合いしている女の子が居るのだがね、まだ、その…」川端は声をひそめて村上に向き直って言った。
「まだ接吻もしていないのですよ」
村上は言葉を失った。三島も黙りこくったまま、コーヒーカップを見つめていた。少し当惑したものの、村上は、
「なるほど。それでつまり、その子と寝たいんですね?」と聞いた。
「えぇ、でもね、どうしていいか、皆目分からないのですよ」川端は肩をすくめてコーヒーと水を、おずおずと交互にすすった。
「川端さん、女性の経験は?」
「まさか、全くないですよ」
「え?!世界的に有名な、ノーベル文学賞受賞作家が、まだ童貞?冗談でしょう、川端さん」村上は笑うしかなかった。失礼とわかっていながらも、こらえられない。ところが川端は、別段気にしていないようだ。
「村上くん、僕もだよ」三島が急に呟いた。
「は?」
「だから、僕も、女性と寝たことがありませんよ、と」
村上は凍りついた。コーヒーとトーストなんか頼むんじゃなかった。もっと何かこう、時間をかけてフォークでつついたりしながら食べられる、バームクーヘンなどにすればよかった。こんな有名作家たちに、突然性生活を打ち明けられて、手持ち無沙汰にならないはずがない。このふたりがどういうつもりなのか、さっぱり分からない。
「眠れる美女の家、ってご存知ですか」川端が村上に訊ねた。
「あぁ、川端さんの作品ですね?」
村上は、数年前に『眠れる美女』を読んでいた。男が、眠れる美女の家とやらに通いつめるという、奇妙な話だった。女主人が家を管理していて、美女に眠り薬を与えるので、客たちは眠った美女たちとベッドを共にし肌を合わせることができる―けれど、セックスはできない。「なんじゃそりゃ?」が、村上の感想だった。
「えぇ、私の作品ですけどね、本当にあるんです、眠れる美女の家が、京都に。私も3度ほど行って、美しい女性と一夜を共にしました」
「小説と同じように?眠り薬で眠らされた女性と一夜を?」
「あぁ、そうですよ。たまに、腕を借りることもあるんです」
村上はもう何が何だかわからなかった―「腕を借りる?」
「あの『片腕』のことですか?別の小説の?それも実話とか?」
川端は頷き、「ええ、肩から右腕をはずして、貸してくれる子が居るのですよ。そうするとね、私、上着のしたに腕を抱えながら、帰るんです」そう言うと川端は、薄笑いを浮かべながら、ぬるいコーヒーをすすった。スプーンでコーヒーをかきまぜると、溶けないままの砂糖がじゃり、と音を立てた。村上はコーヒーのおかわりを頼んだ。もうコーヒーは飲みたくなかったが、ひどく喉が渇いていた。
それまで三島は黙ったままだったが、コーヒーをすすると、
「川端さんに教えてもらってね、私もよく通うようになったんだよ。彼女たちのパトロンにでもなろうかとも思っていてね」と、煙草をくゆらしながら言った。
「それで、チャンスはなかったんですか?つまり、セックスをしたいと頼んだことは?」 村上は自分の言っていることに眩暈すら感じた。彼自信も、まるで十代の男子みたいな質問をしている。何なんだろう、このふたりは?30分前までは、偉大な作家だったのが、今では、修学旅行の夜にだべっている高校生男子ではないか。
「いえいえ、ダメなんですよ、セックスはダメ」三島が前のめりになって言った。「有名な作家さん、でもね。あ、でも、私も少しくらいは、そっちの経験はあるんですよ」
「へぇ、どんな?」村上はそう言いながらも、目の前の三島の胸毛が目障りだなぁ、と思っていた。
「夏に神島へ行ったときに、初江、という子に会ったんだよ。ちょっとぽっちゃりした子でね、ほら、ちょうどあのウェイトレスみたいな子」
「それで?」村上にとって、女の子がどんな風かなんてどうでもよく、結論が早く聞きたかった。
「それでね、ひどい通り雨に遭ってね、戦時中の観的哨があったので、そこで雨宿りをすることにしたんだ。すると、そこに初江が居たのだよ。焚き火で濡れた衣服を乾かしていて、裸だった。私も全身びしょ濡れだったから、自分の服も全て脱いでしまって、初江にこちらにおいで、と言ったんだ」
村上は一気にトーストを平らげると、バターまみれの手を紙ナプキンで拭いた。腹ペコだったのだ。
「それで、ここ3ヶ月くらい、お付き合いしている女の子が居るのだがね、まだ、その…」川端は声をひそめて村上に向き直って言った。
「まだ接吻もしていないのですよ」
村上は言葉を失った。三島も黙りこくったまま、コーヒーカップを見つめていた。少し当惑したものの、村上は、
「なるほど。それでつまり、その子と寝たいんですね?」と聞いた。
「えぇ、でもね、どうしていいか、皆目分からないのですよ」川端は肩をすくめてコーヒーと水を、おずおずと交互にすすった。
「川端さん、女性の経験は?」
「まさか、全くないですよ」
「え?!世界的に有名な、ノーベル文学賞受賞作家が、まだ童貞?冗談でしょう、川端さん」村上は笑うしかなかった。失礼とわかっていながらも、こらえられない。ところが川端は、別段気にしていないようだ。
「村上くん、僕もだよ」三島が急に呟いた。
「は?」
「だから、僕も、女性と寝たことがありませんよ、と」
村上は凍りついた。コーヒーとトーストなんか頼むんじゃなかった。もっと何かこう、時間をかけてフォークでつついたりしながら食べられる、バームクーヘンなどにすればよかった。こんな有名作家たちに、突然性生活を打ち明けられて、手持ち無沙汰にならないはずがない。このふたりがどういうつもりなのか、さっぱり分からない。
「眠れる美女の家、ってご存知ですか」川端が村上に訊ねた。
「あぁ、川端さんの作品ですね?」
村上は、数年前に『眠れる美女』を読んでいた。男が、眠れる美女の家とやらに通いつめるという、奇妙な話だった。女主人が家を管理していて、美女に眠り薬を与えるので、客たちは眠った美女たちとベッドを共にし肌を合わせることができる―けれど、セックスはできない。「なんじゃそりゃ?」が、村上の感想だった。
「えぇ、私の作品ですけどね、本当にあるんです、眠れる美女の家が、京都に。私も3度ほど行って、美しい女性と一夜を共にしました」
「小説と同じように?眠り薬で眠らされた女性と一夜を?」
「あぁ、そうですよ。たまに、腕を借りることもあるんです」
村上はもう何が何だかわからなかった―「腕を借りる?」
「あの『片腕』のことですか?別の小説の?それも実話とか?」
川端は頷き、「ええ、肩から右腕をはずして、貸してくれる子が居るのですよ。そうするとね、私、上着のしたに腕を抱えながら、帰るんです」そう言うと川端は、薄笑いを浮かべながら、ぬるいコーヒーをすすった。スプーンでコーヒーをかきまぜると、溶けないままの砂糖がじゃり、と音を立てた。村上はコーヒーのおかわりを頼んだ。もうコーヒーは飲みたくなかったが、ひどく喉が渇いていた。
それまで三島は黙ったままだったが、コーヒーをすすると、
「川端さんに教えてもらってね、私もよく通うようになったんだよ。彼女たちのパトロンにでもなろうかとも思っていてね」と、煙草をくゆらしながら言った。
「それで、チャンスはなかったんですか?つまり、セックスをしたいと頼んだことは?」 村上は自分の言っていることに眩暈すら感じた。彼自信も、まるで十代の男子みたいな質問をしている。何なんだろう、このふたりは?30分前までは、偉大な作家だったのが、今では、修学旅行の夜にだべっている高校生男子ではないか。
「いえいえ、ダメなんですよ、セックスはダメ」三島が前のめりになって言った。「有名な作家さん、でもね。あ、でも、私も少しくらいは、そっちの経験はあるんですよ」
「へぇ、どんな?」村上はそう言いながらも、目の前の三島の胸毛が目障りだなぁ、と思っていた。
「夏に神島へ行ったときに、初江、という子に会ったんだよ。ちょっとぽっちゃりした子でね、ほら、ちょうどあのウェイトレスみたいな子」
「それで?」村上にとって、女の子がどんな風かなんてどうでもよく、結論が早く聞きたかった。
「それでね、ひどい通り雨に遭ってね、戦時中の観的哨があったので、そこで雨宿りをすることにしたんだ。すると、そこに初江が居たのだよ。焚き火で濡れた衣服を乾かしていて、裸だった。私も全身びしょ濡れだったから、自分の服も全て脱いでしまって、初江にこちらにおいで、と言ったんだ」
+つづく+
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